2018年度の「歴史文化資料保全の大学・共同利用機関ネットワーク事業」

2018年度より本格的に始動した「歴史文化資料保全の大学・共同利用機関ネットワーク事業」(以下、歴史資料保全NW)は、人間文化研究機構(主導機関:国立歴史民俗博物館)と東北大学、神戸大学を中心拠点として、災害時における資料救済活動の迅速化や地域歴史資料を活用した地域研究を進め、地域社会における歴史文化の継承と創成を目指す取り組みです。2018年度は、以下に紹介する取り組みを通して全国各地の大学等と具体的な連携を展開するとともに、国内外への情報発信を進めていきました。


ネットワーク構築

 歴史資料保全NWでは、地域社会の歴史文化を保存・継承し、新たな地域研究を促進するために、各地で地域調査活動を展開する大学等や「資料ネット」などとのネットワーク構築を推進しています。特に、大規模な自然災害に対応するための全国的なネットワークと、地域独自の課題に対応するための地域間ネットワークといった、2段階のネットワークを想定し、その構築を進めています。

 2018年11月17日・18日、各地で活動する全国の「資料ネット」が交流する場として「全国史料ネット研究交流集会」を新潟大学で開催し、2日間で全国から延べ220名が参加しました。


全国史料ネット研究交流集会での報告(天野)

全国史料ネット研究交流集会でのポスター発表

 さらに12月9日には、歴史文化資料保全を通した大学間連携のあり方を協議するために、「地域歴史文化大学フォーラム」を神戸大学にて開催しました。「大学間連携の展望」をテーマとした本フォーラムでは、歴史資料保全NW事業を推進する3拠点の展望を紹介し、全国各地から集まった大学関係者等と今後の連携に向けた協議を進めました。 全国的なネットワーク構築に向けた取り組みと並行して、3拠点を中核として地域間ネットワークの構築も進めています。9月24日には、大阪を会場として「歴史文化資料保全西日本大学協議会」を神戸大学と人間文化研究機構の共同主催で開催しました。首都直下地震の発生が懸念される関東地域では、国立歴史民俗博物館が12月22日に「関東・首都圏を対象とした広域防災対策の進め方についての意見交換会」を開催しました。この会合では、千葉や神奈川といった首都圏に位置する「資料ネット」関係者や博物館関係者とで協議をおこない、「関東・首都圏大学協議会」の設置に向けて、既存の協議会や事業との関係性を整理していきました。3月17日には、東北大学と人間文化研究機構の共同主催で「北日本大学協議会」を開催し、東北地域を中心とした大学連携のあり方が協議されました。

データ保存・記録化

 各地の大学等と推進する資料データの保存・記録化については、「総合資料学の創成」事業と連携して協定を締結した各大学と資料データの連携に向けた協議を進めています。また、千葉大学や横浜国立大学と連携して千葉・神奈川各県における資料情報のデータ化を進めています。このようなデータを蓄積・整理することで、地域に伝来する歴史文化資料の状況を把握するとともに、災害時に向けた対策を検討することが可能となります。

研究・教育

 2018年は7月西日本各地で豪雨被害が発生し、甚大な被害をもたらしました。歴史資料保全NWでは、被災各地の大学や博物館・文書館、「資料ネット」等と連携して救出から応急対応に至る取り組みを進めています。

愛媛:2018年8月6日 愛媛大学にて実施した水損資料の救済活動

 災害に対する備えとしては、地域内での意識共有とともに、被災した資料の救済・取り扱いに関する理解が不可欠です。そのために、災害を想定した協議と技術共有を目指して、12月22日に千葉大学にてシンポジウム「地域の歴史文化資料の救済と連携」を「総合資料学の創成」と共同で開催しました。第1部では水損被害を受けた紙資料や写真資料の救済方法についてワークショップを開催し、参加者にも作業体験により具体的な意識の共有をはかりました。第2部のシンポジウムでは、千葉県を中心とした地域の取り組みをとおして地域の歴史文化継承に向けて検討し、関東地域を対象として頻発する自然災害から地域の歴史文化をいかに守り伝えるかについて議論を深めました。

国内外へ向けた発信

 2018年6月、人間文化研究機構は鹿児島大学と歴史資料保全NWを軸とした基本協定を締結しました。協定締結を記念して、9月29日に鹿児島大学にて第33回人文機構シンポジウム「鹿児島の歴史再発見―新しい地域文化像を求めて―」を開催し、本事業の取り組みを紹介するとともに、南九州地域における鹿児島大学との連携について協議しました。

 国際発信としては、11月29日にハンガリー・ブダペストにおいて、エトヴェシュ・ローランド大学(エルテ大学)と神戸大学との共催で、歴史文化に関する学術ワークショップが開催され、そこで当館から天野真志特任准教授が参加しました。このワークショップでは、日本からは神戸大学と歴博、ハンガリーからはエルテ大学とハンガリー国立博物館が参加し、歴史資料保全NWの取り組みを紹介するとともに、日本・ハンガリーにおける歴史文化資料保全に関する国際比較に向けた議論をおこないました。今後、エルテ大学やハンガリー国立博物館等と歴史文化資料保存・継承に関する協議・研究を進めていく予定です。


ハンガリー:エルテ大学で開催した歴史文化資料保全に関するワークショップ

 歴史資料保全NWでは、全国的なネットワークを構築することで、自然災害をはじめとした危機から歴史文化資料を守り伝えるとともに、伝来した多様な資料を通した研究を推進することで新たな地域像を構築していくことを目指します。災害対策や地域調査において、各地の取り組みは実に多様で大学に限定されない様々な活動形態が特徴的です。本事業では、こうした地域性を踏まえた連携のあり方が求められており、その点においても総合資料学と連携した総合的な取り組みを進めていくことが必要になっていきます。本事業では、今後も各地とさらなる連携を進め、歴史文化の多様な継承について考えていきます。